<講演会報告>
平成18年11月14日
東京大学ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構

ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構
発足記念講演会開催される


 将来のユビキタス情報社会にイノベーションをもたらす目的で設置された「ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構(nanoQUINE)」の発足記念講演会が10月30日14時半から約300名の参加を得て開催されました。会場となった駒場リサーチキャンパスのAn棟コンベンションホールは満席となり、3階大会議室に設けられたサテライト会場でスクリーンに見入る人も出るほどの盛況ぶりでした。これも超ブロードバンド、超低消費電力、超安全性を兼ね備えた次世代情報ネットワークや量子現象を利用したより高度な量子暗号通信や飛躍的な計算量を実現する量子コンピューター実証への期待の高さが裏付けられたものといえます。

[諮問委合同会議]

諮問委員会合同会議
 当日は講演会前から諮問委員会・経営委員会・運営委員会を合わせた合同会議が13時から開かれました。引き続いて13時55分から諮問委員・経営委員・運営委員を含めて記者会見を開催し、機構の取り組み内容などをアピールしました。

[記者発表会]

講演会前に開かれた記者会見


記者団の質問に答える荒川機構長
 記者会見に出席した小宮山宏総長は「極めて自信を持ってアプライした。日本の競争基盤を強化する意味でも東大が貢献できる最強の分野」と強調しました。同席した諮問委員長の江崎玲於奈横浜薬科大学学長は「現在のコンピューターを打破するものが、量子情報通信。日本の産業にとって、重要なプロジェクトになろう」と、意義を解説しました。また柘植綾夫総合科学技術会議議員からは「間違いなく情報通信のイノベーションは不可欠。この機構が世界に貢献する場として有効に発揮するだろう」と挨拶がありました。
 この機構に参画された各協働企業代表からもそれぞれ一言ずつコメントの表明がありました。太田賢司シャープ代表取締役専務は「新しい産業を作るために、原点に帰る研究を機構で進めたい」、國尾武光NEC執行役員兼中央研究所長は「1社だけではかなり先のことまでできない。いろんな方と知を議論しながら、新しい形のイノベーションを産業に結びつけたい」、福永泰日立製作所中央研究所長は「枠を取り払って、協働で新しいイノベーションを作っていきたい。こちらに企業の応用ニーズを持ち込んでインスパイアするようなつながりを作り上げていきたい」、村野和雄富士通研究所代表取締役社長は「ナノ量子領域はこれからの日本の国際競争力をもたらす一つの重要な領域。早い時期からロングタームにかけて一つの基幹技術に育てていきたい」とそれぞれ抱負を述べました。
 続いて行われたマスコミ各社との質疑応答では、産学連携のあり方や枠組み、取り組みの評価指標、先進例など、さまざまな角度からの質問が相次ぎ、講演会開始直前まで続きました。


[記念講演会]

前田生研所長の司会で開幕


開会の辞を述べる岡村副学長


総括責任者の小宮山総長が挨拶
 講演会は定刻の14時半から始まり、3階の大会議室にもサテライト会場を設けたほか、生産技術研究所の構内テレビにもその様子が映し出されました。前田正史生産技術研究所長の座長司会で始まり、開会の辞として岡村定矩副学長は「7番目の機構として10月17日に発足したばかり。ユビキタス情報社会に向けてボトルネックを乗り越える成果を期待したい。幸い、協働企業4社は日本を代表する企業でもあり、3年目にレビューがあるが、おそらく10年プロジェクトになるだろう」と本機構が手がける最初のプロジェクトである科学技術振興調整費「ナノ量子情報エレクトロニクス連携研究拠点」の見通しを含めて挨拶されました。

 続いて同プロジェクトの総括責任者でもある小宮山宏総長が挨拶に立ち、東京大学が掲げる“アクションプラン2006”に沿って「時代の先頭に立つ大学として、世界の知の頂点を目指す。このプロジェクトはそれに符合するもの。やって良かったという意味のある成果を本当に出してほしい。またアカデミアのみならず、産業界のリーダーにもなれる人材育成が社会のイノベーションにつながるもう一つの課題」と、研究、人材育成、イノベーションの三位一体で進める考えを示されました。そのうえで本研究機構の特徴を「東大に4つもの企業ラボをもつことが最大の特色。教員が触媒となって大学という場を通じて連携を模索してほしい。世界トップの拠点を目指し、それは同時に世界に開かれた拠点であるべき」と強調しました。


来賓挨拶をする小田局長
 次に来賓の文部科学省科学技術・学術政策局の小田公彦局長よりご挨拶をいただきました。小田局長は「多くの課題の中から本命中の本命として採択した。このプロジェクトはまさに総合科学技術会議が機能するかどうかの試金石ともなる。日本のみならず、世界に向けた人材を輩出して頂きたい」と祝意を表しました。

[特別講演]
 座長を本研究機構長でもある荒川泰彦教授にバトンタッチして江崎玲於奈横浜薬科大学学長と柘植綾夫総合科学技術会議議員の特別講演に入りました。荒川座長は「お二人の講師には快くお引き受け頂きました」と謝辞を述べながら、お二人を紹介しました。
 最初に江崎玲於奈横浜薬科大学学長が「ナノ半導体の開拓と量子情報の歩み」と題し、量子効果の観察から応用に至る、ご自身の研究の半生を踏まえた特別講演を行い、研究機構発足に花を添えました。「20世紀初頭に確立した量子力学の原理は今やプラクティスの段階」という考えのもとに、量子力学から量子情報にいたる発展過程やご自身が提案した半導体超格子などの人工量子構造の提案が量子デバイス発展に果たした役割などを紹介しました。そして自らの経験を踏まえて、知的能力の二元性、2つの文化など、研究者のあり方を示唆するまとめを披瀝し、人材育成の方向性を示しました。

 
特別講演する江崎氏

 続いて柘植議員は「国創りに結実する科学技術創造を目指して〜イノベーション創出能力強化と人材育成」と題して、日本のあるべき姿を描きながら、「社会的・経済的価値の創造という真のイノベーションを創出する必要性がある」と、総合科学技術会議が考えるイノベーションについて講演しました。本研究機構に対して、柘植議員は「機構が知の創造と価値の創造の結合の場となり、イノベーション25の柱の一つになること、人材育成の場となること、真の産学連携のロールモデルとなること」と機構に対する注文と激励の言葉を述べました。

 
特別講演する柘植議員

[第II部 講演]


取り組みを話す荒川機構長
 休憩後、座長を樽茶清悟工学系研究科教授に代わり、第局瑤旅岷蕕飽椶蝓荒川泰彦機構長が「ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構における研究開発」と題して、研究機構の具体的な取り組みの方向性を講演しました。10年、15年後の情報社会のボトルネックを解決する手だてとして、超ブロードバンド、超低消費電力ネットワーク、超安全性の3つの克服すべき課題に取り組むとしました。具体的には「ナノ量子情報エレクトロニクス、次世代ナノエレクトロニクス、量子情報科学技術基盤研究部門を設け、大学の学術と産業力との統合によってさまざまなレベルでイノベーションを創出していく」と説明しました。当面の3年内には量子ドットレーザーのさらなる高性能化、単一光子発生および量子もつれ光子対発生を行い、量子状態の制御を通じ、高効率な量子暗号通信を実現していく計画などを明らかにしました。


太田シャープ専務
 引き続き、協働機関側から、まずシャープの太田賢司代表取締役専務が「コア技術を大きくし、高度情報通信など、事業領域を広げていきたい。そのためには時間軸で考え、意図的に技術の種を多く播く必要がある。これもその一環で、フレキシブルエレクトロニクスの出口として、フレキシブルディスプレー、有機太陽電池、センサー、環境などへの応用を考えている」と講演しました。


國尾NEC執行役員
 次にNECの國尾武光執行役員兼中央研究所長が講演に立ち、「C&Cの会社にとって量子情報は非常に重要。量子力学の応用はまず、第一にバンド理論の確立に、第二は波動性・粒子性からレーザの確立に、現在は量子もつれという量子現象を応用する第3の波の時代に入っている」と、これまでNECも量子コンピューターや量子暗号の研究に取り組んできた経緯も含めて、本プロジェクトに対する意気込みを語りました。NECは具体的に本研究機構で量子ドット光源を中心に量子メモリー、ゲート、量子インタフェースなどの量子回路を開発し、量子プロトコル、量子回路構成などのシステムなどの研究も進めていくことを明らかにしました。


長我部日立製作所基礎研究所長
 日立製作所は長我部信行基礎研究所長が中村道治執行役副社長の代理で講演に立ち、これまでの同社のナノエレクトロニクス研究や量子情報についての取り組み経過を説明しながら、「本プロジェクトでは、量子情報通信のアンチスクイーズド量子状態を新しいセキュア通信へ応用する研究およびシリコン量子ビットによる量子計算実証の2つを課題に研究を進める。大学の知と産業のものづくり力を合わせたシナジーを最大化していきたい」と、今回のT型連携への期待を述べました。


村野富士通研究所社長
 最後に挨拶に立った富士通研究所の村野和雄代表取締役社長はナノエレクトロニクス連携研究センターでの最初のアウトプットとして設立したQDレーザ社を引き合いに「これを皮切りに量子ドットレーザーの高性能化を通じて、通信用レーザーをすべて量子ドットレーザーで置き換えたい」と、引き続き機構による連携研究が次世代ネットワークの高度化に果たす役割を具体的に述べました。また今後の研究目標として、量子ドットレーザーの高度化のほか、「光電子融合技術や量子情報素子、量子暗号技術、ナノ技術を確立していきたい。また各要素技術を融合し、量子暗号通信と量子計算の実証につなげていく」と述べられました。


閉会の辞を述べる西尾副学長
 最後に閉会の辞として挨拶に立った西尾茂文副学長は横断的な機構発足を記念する意味で「世界の大学は現在、俯瞰学問、グローバルスーパーリーグ、イノベーションなど、5つの大波のうねりにさらされている。その5つの波を乗り越える機構に期待したい」と締めくくりました。

続いて会場を移し、18時から懇談会を行いました。