<公開シンポジウム報告>
平成19年4月5日
東京大学ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構
東京大学ナノエレクトロニクス連携研究センター

公開シンポジウム
「ナノ光・電子デバイスと量子情報エレクトロニクス」
開催される


 東京大学ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構(CINQUIE)はナノエレクトロニクス連携研究センター(NCRC)と共催で平成19年3月20日に東京・御茶ノ水の東京ガーデンパレスで公開シンポジウム「ナノ光・電子デバイスと量子情報エレクトロニクス」を開催しました。同シンポはNCRCが平成14年度から進めてきた文部科学省「世界最先端IT国家実現重点研究開発プロジェクト(ITプログラム)」に関する最終成果報告会と位置づけるとともに、平成18年度にスタートした科学技術振興調整費・先端融合COE「ナノ量子情報エレクトロニクス連携研究拠点」プロジェクト発足を記念して開かれました。会場には朝から約200人の参加者が出席し、終日、熱心な討論が行われました。

 オープニングセッションで司会の横山直樹富士通研究所フェローが開幕を告げ、主催者を代表し、榊裕之東京大学教授が開会挨拶を行いました。榊教授は「思えば荒川先生と私が量子ドットレーザを提案して25年になります。技術が一つのコンセプトからモノになるまでには多くの方々の技術開発と学術研究が不可欠なことを身を以て痛感しました。ナノエレクトロニクス技術も光と電子がベースのところに、最近では核スピンの利用にまで及び、核スピンから地球規模まで技術のビジョンが広く求められる時代に入ってきました。こうしたスケールの大きさに対処するには、専門の異なる人たちがたくさん集まり、切磋琢磨と相互啓発が不可欠となります。25年後に発展するような種をぜひ播かれることを期待します」と挨拶しました。NCRCの成果をもとに、平成18年4月に世界初となる量子ドットレーザの開発製造会社「QDレーザ」を富士通と三井物産が合弁で設立しましたが、それに象徴されるNCRCの足跡を振り返るとともに、今後のCINQUIE発展に期待を込めた開会挨拶となりました。
 続いて来賓ご挨拶を文部科学省の藤木完治大臣官房審議官にお願いし、藤木審議官は「国の第3期科学技術基本計画の中で、ナノテクはとくに重要かつ戦略的な領域。厳しい国際環境の中で高い目標を掲げて研究開発を進めてほしい。もちろん、目標だけでは道半ば。イノベーションに結びついてこそ潜在能力を100%生かすことになる。重要な人材育成にも期待します」と、ナノ量子情報エレクトロニクス連携研究拠点づくりに言及し、強調されました。

 オープニングセッションの締めくくりとして、荒川泰彦CINQUIE機構長がNCRCセンター長の立場も踏まえ、「ITプログラム光電子デバイスプロジェクトの総括と先端融合イノベーション創出拠点プロジェクトの概要」と題して、NCRCのこれまでの取り組み総括と平成18年度にスタートした先端融合COEの概要について報告を行いました。
 その中で荒川教授は「当初、目標になかった温度安定な量子ドットレーザや高温動作の単一光子発生素子の実現など、目標以上の成果を上げることができました。量子ドットレーザに関しては先端技術開発とそれによる社会への普及が表裏一体であることを如実に示すことができました。その象徴として『QDレーザ』設立があります。人材育成もこのプロジェクトを通じて大きな成果を上げたといえます」とITプログラムの総括を行いました。また科学技術振興調整費「ナノ量子情報エレクトロニクス連携研究拠点」についても「学術と産業力の統合によるイノベーションを実現していく。その大きなポイントが機構内に設けた4つの東大企業ラボであり、早くも成果が生まれつつあります」と今後の道筋を紹介しました。

セッション1:引き続き、横山直樹富士通研究所フェローの司会のもと、「量子ドット及び新ナノ材料の形成とデバイス展開」に移り、4名から報告がありました。


セッション2:司会を古澤明東京大学工学系研究科助教授にバトンタッチし、「光子制御ナノ構造によるデバイス展開」の部の報告を5名から受けました。


ポスターセッション:昼食を兼ねてポスターセッションが行われ、多様な分野から56件のポスター発表がありました。


セッション3:今井浩東京大学情報理工学系研究科教授が司会を務め、「光・電子制御技術の基礎」に関して3名の報告を受けました。


セッション4:山口浩一電気通信大学助教授の司会のもと、「ナノ光電子デバイス技術の展開」で4名から報告を受けました。

セッション5:いよいよ最後のセッションに移り、司会は荒川泰彦機構長が務め、カリフォルニア工科大学(CALTECH)のKerry Vahala教授の「特別講演」と「パネル討論:産業界からの期待」−に入りました。
 まず荒川機構長が新しいウエハーレベルの微小共振器による高Q値物理を研究しているバハラ教授を紹介し、バハラ教授は光ファイバに直接結合した超低損失のトロイダル型微小共振器など、最近のご自身の研究内容について特別講演し、シンポジウムに花を添えました。


 引き続くパネル討論では、笠見昭信東芝常任顧問、曽根純一NEC基礎・環境研究所長、安永裕幸経済産業省産業技術環境局研究開発課長、吉川誠一富士通研究所常務取締役の4氏にパネラーとしてご登場いただき、NCRCを中心に進めてきた、これまでの産学連携に対する問題意識とこんごへの期待などを伺いました。
 司会の荒川機構長は「NCRC発足時にも多大なご尽力をいただきました」と最初に笠見氏を紹介。笠見東芝常任顧問は「かつての産学連携は大学から生まれた成果を産業界と共同研究する形でした。しかし新しい産学連携は10年、15年先のイノベーションを描きながら、新しい領域挑戦が課題。イノベーションには種の創出と育成という2つのフェーズがないと生まれない。さらに世界の知恵の交流をやるべき。有能な研究陣を結集し、かつ世界を俯瞰できる人材育成をぜひ手がけてほしい」と種の創出と育成を有機的に結びつける産学連携への期待を述べました。
 次にNECの曽根所長は「新概念は深い問題意識と異質な研究環境のかけ算から生まれる。これからの時代は異質な集団とのコミュニケーションが大切」と提起。その上で「企業にとって核となる、突出した基盤技術を持ち、その上でオーバーラップする活動がないと、いざというときにコアをカスタマイズできない。ITプログラムではシリコンフォトニクスをテーマに基礎が生まれた。NGNに向けて育てていきたい。先端COEの中では量子情報をテーマに進める。企業単独ではむずかしいので、大学と一緒に探っていきたい」と今後の抱負も含めて提起しました。
 続いて安永経産省課長は「我が国のイノベーションプロセスの課題として、最近、エレクトロニクスという声が少なくなり、ゆゆしき事態と思っています。これには企業が短期的マネジメントに陥っているとか、産業技術の最前線が理論限界ぎりぎりにまで及んでいる、など、いくつか課題があると思います。このような中では、経営も学術も政策も大胆なフロンティアを作り上げる必要があります。『QDレーザ』に見られるように、このプロジェクトが生み出したサイエンス、テクノロジー、ビジネスという三層が重なった幸福の相互連携モデルに学び、国の政策を進めていきたい」と問題意識を述べました。
 最後に吉川富士通研常務はITプログラムを通じて設立した「QDレーザ」の成功要因の教訓として「産学で、産業化の出口イメージを共有化できたこと、サイエンスとエンジニアリングという役割分担を明確化しえたこと、短中長期目標の両立・同時進行(基礎と応用と実用化研究の同時進行・デマンドプル型)で進め得たこと、競争と連携(東大がハブに、各社がスポークに)、国家プロとの連携ができたことが要因であろう。今後については、これらの条件をどう実現していくかが次のプロジェクト成功につながる」と提起しました。


 4人の問題提起を受けて、司会の荒川機構長は「サイエンス、テクノロジー、ビジネスの融合が重要との指摘には重みがあります。たとえば、先端COEはフェーズ兇蘯蠅けますが、新たなフェーズ気眛り、両輪で進めていきます」と強調して、再度、パネラーから補足提起を求めました。
 笠見東芝常任顧問は「ぜひフェーズ兇鬚笋蠅覆ら、次のアイテムでフェーズ気鬚笋辰督困たい。産学連携がいわれて久しいが、同じ土俵で議論しているかが弱い。将来社会にどうインパクトを与えるか、そのことを産業界とどう議論をするかが大切。産学が結集して新領域を作ってほしい」と期待を込めました。
 それを受けてNECの曽根所長は「役割分担が重要と思う。大学が新しいシーズを生み出す源泉であり、期待したい。ビジネス化は産業界の責任であり、最後は産産連携も必要となるかもしれない。QDレーザのケースは商社と組んだという点で産産連携の一つの形であろう」と問題意識を述べました。
 安永経産省課長も「役所も産業化だからといって、目先のものを求めるのではなく、いろんなタイムレンジの中で短期、中長期で一番いいポートフォリオで研究開発の仕組みを考えていきたい」と述べました。
 富士通研の吉川常務も「オープンイノベーションでいわれている、自前と協力をどう分けて考えるのかが大切。5年先、10年先を見て、今、何をやるかが重要だろう」と総括しました。
 この4人の問題提起を受けて、会場から意見として、司会がQDレーザの菅原充社長にコメントを求めました。菅原社長は「オープンイノベーションがいわれたが、QDレーザはそのモデルケースとなりうると思う。米国も問題意識はそこにあるし、困難はつきまとうだろうが、QDレーザを成功事例にしていきたい」と決意を述べました。
 会場からもいくつか意見が述べられるなど、限られた時間ながら、オープンイノベーション時代における産学の役割、産学官による将来ビジョンの共有、サイエンス・テクノロジー・ビジネスの三層構造のサイクルなど、産学連携に課せられた課題と認識を改めて浮き彫りにできたパネル討論となりました。

クロージングセッション:最後に、金沢学院大学学長でもある石田寛人東京大学特任教授が閉会の挨拶を行い、「このプロジェクトはいわば、日光東照宮の陽明門。すばらしくできあがったが、まだ門に過ぎない。今後、本殿づくりに取り組んでいただきたい。厳しい国家財政の中、プロジェクトが多くの国民に賛同してもらうためには、タイムリーに成果を出していくことが大切であることを添え、今日は5年に渡るプロジェクトの卒業式であり、新プロジェクトの発足というフェーズの重なり合いをお祝いしたい」とクロージングの言葉を結びました。