<公開シンポジウム報告>
平成21年5月6日
東京大学ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構

公開シンポジウム
「ナノ、量子、IT融合によるイノベーション創出
〜ナノ量子情報エレクトロニクス研究拠点の新展開〜」


 東京大学ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構は、4月22日(水)10時から東京・本郷の東京大学理学部1号館小柴ホールで、「ナノ、量子、IT融合によるイノベーション創出〜ナノ量子情報エレクトロニクス研究拠点の新展開〜」と題して公開シンポジウムを開催しました。財団法人光産業技術振興協会、東大グローバルCOE(セキュアライフ・エレクトロニクス、未来を開く物理科学結集教育研究拠点、理工連携による化学イノベーション)4者との共催によるものです。科学技術振興調整費先端融合領域イノベーション創出拠点形成プログラムにおける3年目の絞り込み再審査により当連携研究拠点が継続課題と決まって以来、初の公開シンポ開催で、おかげさまで当日は、会場をびっしり埋め尽くす約260名の参加者が詰め掛け、活気あふれる公開シンポとなりました。


大勢の参加者が詰め掛け、活気みなぎる小柴ホール

オープニング
 シンポジウムは5つのセッションとポスター発表・懇談会で構成され、開幕を告げるオープニングは荒川泰彦機構長による司会で進められました。まず松本洋一郎東大理事・副学長が「これまでの成果、今後の発展を議論する場としてほしい」と力強く開会挨拶しました。続いてご来賓の岩瀬公一文部科学省科学技術・学術総括官から「3年目の再審査に長時間割き、私自身にとってもイノベーションとなりました。今回は協働体制とイノベーションが明確なところを継続課題として選ばせていただきました。今後は最先端融合のモデルとしてできるだけ可視化してほしい」と挨拶をいただきました。


開会挨拶に立つ松本副学長(左),ご来賓挨拶の岩瀬文科省総括官(中),司会:荒川機構長(右)

セッション1:ナノ量子情報エレクトロニクスの最前線
 最初のセッションに入り、今井浩教授が司会を務め、機構における研究活動の最前線として、その一翼を担う3先生を紹介しました。まず副機構長でもある樽茶清悟教授が「電子スピン固体量子計算のための量子ビット構成」について講演を行いました。スピン量子情報についての総合的な解説から最近の成果であるスピン量子ビットの多ビット化について、興味ある講演でした。
 続いて今年度から協働機関として参画した(株)QDレーザの菅原充代表取締役社長が、「量子ドット光デバイスの開発と事業展開」と題して講演しました。菅原社長は「ナノテク量産技術として世に出る製品は量子ドットレーザが初めてであろう。これを世界標準、21世紀のコア技術として普及させ、将来的にIPO(株式公開)を目指したい」と事業化戦略にも触れながら講演しました。
 このセッション最後に有機半導体による「大面積エレクトロニクス」という新概念研究を展開している染谷隆夫教授が「分子ナノ量子情報デバイスの大面積エレクトロニクス応用」と題して講演しました。染谷教授はこれまでの成果の中でもとくに最近のカーボンナノチューブによる導電性ゴムの作製を印刷で可能にした成果に触れ、「超音波シートなど、人間にない機能が実現でき、分子性ナノ材料によって実空間にアンビエントなエレクトロニクスを展開できる」と新概念が創出する新しい応用領域開拓についても述べました。


樽茶教授,菅原社長,染谷教授,司会:今井教授(左図から)

セッション2:ナノ量子情報エレクトロニクスの最近の研究成果
 続くセッション2は夕刻17時から山上会館で開催するポスター発表のプレビュー講演で、岩本敏准教授による司会で始まりました。都合49件のポスター発表について、各発表者が持ち時間50秒で発表内容の要旨のみを次々とプレビューし、全体の研究発表内容を俯瞰することができました。


一列に並び順番を待つプレビュー発表者(上左)と会場(右)

セッション3:特別講演「量子ナノ構造による物性制御とデバイス展開」
 午後の部に入り、平川一彦教授の司会によるセッション3「特別講演」では、榊裕之豊田工業大学副学長(08年文化功労者、東京大学名誉教授)が「量子ナノ構造による物性制御とデバイス展開」と題して特別講演を行いました。ご自身の低次元デバイス研究の歴史に触れながら、科学や技術の持つ意味など、含蓄に富んだご講演でした。とくに「理学と工学、人文科学、産業との融合のスピリッツが大切」と強調されました。またイノベーションもその経済的価値だけでなく、学術、社会、環境なども加味したイノベーションの重要性について訴えました。


「融合スピリッツ」を説く榊豊田工大副学長(左図),司会:平川教授(右図)

セッション4:ナノ量子情報エレクトロニクスによるイノベーション創出
 山内薫教授の司会により基調講演のセッション4に入り、まず、4月に東大総長に就任した当拠点総括責任者でもある濱田純一総長が「東京大学における学術・科学技術研究教育の展開」と題して基調講演を行いました。濱田総長は「大学の中でチャレンジングな試みが行われることで、大学改革の起爆剤となる。機構のように産学連携に足場を置き、トップを走る世界拠点として協力に推進していきたい」と抱負とともに拠点総括責任者としての固い決意を述べました。
 続いて文部科学省の岡谷重雄科学技術・学術戦略官(代理太田行則戦略官付)が「先端融合領域イノベーション創出プログラムによる日本の変革」と題して基調講演を行いました。とくに同プログラムに組み込まれている3年目の再審査の考え方などを詳細に述べられ、「産学で共有するビジョンとパッションで世界市場まで見通した戦術・戦略でイノベーションを創出してほしい」と締めくくりました。
 このセッション最後の基調講演として荒川機構長が「ナノ量子情報エレクトロニクスの展望と東京大学の取り組み」と題し、日ごろの活動に加え、拠点形成についての新たな考えなどを展開いたしました。それによると「ナノ量子機構は大学というアカデミアの枠を超え、社会も取り込んだ世界拠点として形成していきたい。またイノベーション創出のパイプライン化を図っていきたい」と述べ、世界拠点形成および持続的なイノベーション創出に強い意欲を見せました。



上段左から順に濱田総長、太田戦略官付、下段左から荒川機構長、右は司会:山内教授

セッション5:パネル討論 〜産学協働によるイノベーション創出〜
 続いて荒川機構長の司会で、各協働機関の代表者等に参画いただいてパネル討論を行いました。太田行則戦略官付のほか、高橋明シャープ研究開発本部副本部長、曽根純一NEC中央研究所支配人、武田晴夫日立製作所基礎研究所長、吉川誠一富士通研究所常務取締役、菅原充QDレーザ代表取締役社長の6氏がパネラーとして登壇いただき、1)産業界の本プロジェクトへの取り組みの決意、2)産業界からの期待や本プロジェクトへの注文、3)産業界から見た大学のあり方、4)本プログラムへの要望などについて、それぞれ発言をお願いしました。その中で、各協働機関ともこの先端融合COEの産学連携によって、自社の枠を超え、大学の知・リソースを活用し、シーズ開拓とイノベーション創出に産学協働の意義を見出しているほか、時期的にもこのプログラム制度に関して文科省への注文も目立ちました。


壇上に並んだパネラー(左,中)司会:荒川機構長(右)

 一方、会場からも発言を求め、「日本の研究者だけでは、この分野の研究は不十分で、世界的な国際協力が不可欠。日本の拠点と同時に世界拠点化が欠かせない」との意見や、「人材育成によって、いろんな産業に人材という栄養が行き渡ることが大切」などの意見が出され、会場とパネラーとのコラボレーションで討論が盛り上がり、今後の機構の方向性を指し示す討論となりました。


会場からも発言が相次ぐ

クロージング
 最後に閉会の挨拶に立った前田正史理事・副学長は「大学としては、最強のメンバーでこの先端融合COEに取り組んでおり、真の意味のイノベーションを望んでいます」という言葉でシンポジウムを締めくくりました。


クロージングの挨拶を行う前田副学長

ポスターセッション・懇談会
 17時から場所を山上会館に移してポスター発表と懇談会を行いました。会場内にはところ狭しと49件のポスターが掲示され、その前には説明の研究員が立ち、質問者との討論も弾みました。並行して平本俊郎教授の司会で懇談会が進行し、副機構長の樽茶清悟教授の開会挨拶と神谷武志情報通信研究機構プログラムディレクターの乾杯音頭などで盛り上がり、懇談とともに、ポスターを前に熱心に研究成果について討論する風景がみられました。




ポスター発表と懇談会が同時進行し、成果内容の討論にも弾みがつく