田中雅明教授、大矢忍教授らと日本電信電話(NTT)などとの共同研究グループは、SrRuO3(以下SRO)というワイル半金属と呼ばれる特殊な磁石の薄膜に電流を流すだけで、その磁化の向きを反転させることに成功しました。電流から磁化に作用する回転力「スピン軌道トルク(SOT)」を得るために、従来は磁石の薄膜と高価な重金属薄膜を接合した二重層が用いられてきました。しかし、作製の高コストの一方、磁化反転には107Acm-2程度の大きな電流密度が必要などの問題がありました。共同研究グループはSRO薄膜内に10pm(10-11m)程度のごく微小なRuO6格子の回転が起こっている領域を突き止め、それによる劇的にスピンホール効果が増大し、磁石単層でも大きなSOTが得られることを明らかにしました。これにより従来の10分の1程度の3.1×106cm-2の電流密度での磁化反転を実現できました。この成果は単結晶中の酸素原子のわずかな「ズレ」を積極的に利用し、SOTを用いて磁化を低い消費電力で制御する、新たな材料設計の指針を与えるものです。今後、人工知能(AI)やニューロモルフィックコンピューティング、自動運転システムなどを支える超低消費電力の磁気メモリや磁気センサといった次世代スピントロニクスデバイスの基盤技術になることが期待されます。この共同研究には東大グループとNTTのほか、日本原子力研究開発機構、北海道大学、熊本大学の研究者が加わりました。成果論文はAdvanced Materialsオンライン版に公開されました。
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